日本における遺伝治療の現状
遺伝子治療、慢性病にも リウマチなどが候補 文部省専門委

発行年月日   1999年 2月 9日
媒体(紙誌)  朝日新聞 朝刊
 人体に外から遺伝子を入れる遺伝子治療の審査をしている文部省の学術審議会遺伝子治療臨床研究専門委員会(主査、豊島久真男・大阪府立成人病センター総長)は八日開いた会合で、遺伝子治療の対象を慢性関節リウマチなどの慢性病にも広げる方向で見直しを始めることを決めた。現行のガイドライン(指針)では「生命を脅かす」病気に限られているため、必要に応じて指針の改定もするとしている。
 遺伝子治療を規制している「大学等における遺伝子治療臨床研究に関するガイドライン」は1994年に文部省告示で定められた。安全性が確立していなかった新治療を慎重に始めるため、指針では遺伝子治療の対象を生命を脅かす病気に限った。これまで、がんやエイズ、生きていくのに必要な酵素をつくれない病気が検討対象になってきた。
 しかし、米国ではすでに慢性関節リウマチなどの慢性病の遺伝子治療も承認されている。先月末までに米国で計約三千人に遺伝子治療が実施されているが、大きな事故は報告されておらず、安全性への不安は薄らいでいる。
 ○生活習慣病も議論を
 閉そく性動脈硬化症の遺伝子治療を昨年十二月に学内の倫理委員会に申請した大阪大学医学部の荻原俊男教授の話 閉そく性動脈硬化症は患者数が多いうえ、症状が進めば脚の切断を余儀なくされる。遺伝子治療によってそれが回避できれば患者にとって朗報。今回の決定を契機に、生活習慣病などの遺伝子治療をめぐる議論が進むことを期待したい。


神戸大が遺伝子治療申請 前立せんがん対象 【大阪】

発行年月日   1999年 2月 4日
媒体(紙誌)  朝日新聞 夕刊
 神戸大医学部泌尿器科(守殿貞夫教授)が、前立せんがんの遺伝子治療の実施を、同大学の倫理委員会と病院長に昨年十二月に申請していたことが分かった。すでに東大医科学研究所が実施している腎臓がんの遺伝子治療と同じ遺伝子を使う。前立せんがんを対象とする遺伝子治療については一月下旬に岡山大が同学内に申請している。
 計画によると、患者に免疫機能を調整するたんぱく質「GM−CSF」をつくる遺伝子を入れ、がんとたたかう免疫力を高める。東大医科学研究所では、患者から採取した細胞に遺伝子を組み込んで培養して戻す方法を採っている。これに対し神戸大学では、あらかじめ米国企業が開発した培養細胞に遺伝子を組み込んだものを使い、この細胞を手足に皮下注射する方法を採る予定だという。均一な質を持つ細胞が手に入ることで、治療のスピード化と普遍的な治療が可能になるという。


肺がん遺伝子治療、慈恵医科大が承認

発行年月日   1999年 1月21日
媒体(紙誌)  朝日新聞 朝刊
 東京慈恵会医科大学の付属病院遺伝子治療審査委員会は二十日、衛藤義勝教授(小児科)らが申請していた肺がんの遺伝子治療臨床研究について技術や安全性に問題ないとして承認した。文部、厚生両省に実施計画の審査を申請する。
 手術など他の治療法をとれない患者を対象にするもので、がん抑制遺伝子p53を組み込んだウイルスを使って治療を目指す。



肝がん遺伝子治療申請 東京大学医科学研究所付属病院

発行年月日   1999年 1月 6日
媒体(紙誌)  朝日新聞 朝刊
 東京大学医科学研究所付属病院(浅野茂隆病院長)は五日、肝臓がん患者向け遺伝子治療の臨床研究実施計画の審査を文部、厚生両省に申請した。がんを抑制する働きがあるp53という遺伝子を組み込んだウイルスを肝臓の動脈内に入れてがん細胞をやっつける計画。



肝硬変細胞よみがえった 再生物質で遺伝子治療 兵庫医科大【大阪】

発行年月日   1998年 5月20日
媒体(紙誌)  朝日新聞 朝刊
 いったんなってしまうと元の正常な細胞には戻らないと考えられ、根本的な治療法がない肝硬変を、肝臓の再生を促進する物質「肝細胞増殖因子(HGF)」による遺伝子治療で治すことに、兵庫医科大学第一外科の岡本英三教授や藤元治朗講師らの研究グループがラットを使った実験で成功した。肝炎から肝硬変になるのを予防する効果も期待できるといい、研究グループでは「人間への応用ができると、国内で年間約4万人の命が奪われている肝臓病患者への朗報となる」と話している。研究結果は28日から米国・シアトルで開かれる米国遺伝子治療学会で発表される。
 肝硬変は、肝臓がんや食道静脈りゅうなど致死性の高い疾患の発生母体になる疾病として知られる。我が国では、肝硬変から、さらには肝臓がんに進む可能性のあるC型肝炎などのウイルス性肝炎の患者が多いことから、肝炎が肝硬変へ進行することを食い止めることが課題になっている。
 研究グループでは、薬剤をつかって肝硬変にしたラットを十二匹ずつ三つのグループに分け、うち二つのグループにベクター(運び屋)となる不活化したネズミのインフルエンザウイルスの一種にヒトHGF遺伝子を組み込み、一週間ごとに足から筋肉注射した。その結果、何も投与しなかった肝硬変ラットは七週間後までにすべて死んだが、20マイクログラム(1マイクログラムは1グラムの百万分の1)投与したラットは約半数が、40マイクログラム投与したラットではすべて生き残った。生き残ったラットの肝臓は、肝硬変による線維が消えてほぼ正常な細胞に戻っていた。
 研究グループによると、投与したHGF遺伝子の情報が筋肉の細胞で転写されることにより、たんぱく質であるHGFが発生。HGFは血液に乗って全身をめぐり、肝硬変になっている肝臓で有効に働くという。
 ○副作用の検討を
 有井滋樹・京都大学医学部講師(肝臓外科)の話 HGFが肝硬変を改善するのに有効であることを示す非常に意義深い実験結果と思う。ぜひ、臨床応用の方向で研究を進めてほしい。また、今回は遺伝子導入の方法だが、HGFたんぱくを投与する方法との比較やがんの増殖を促進するような副作用についても検討を重ねてほしい。



がん遺伝子で脳神経再生 脳卒中など治療法に道 利根川教授グループ

発行年月日   1997年 1月30日
媒体(紙誌)  朝日新聞 夕刊
【ワシントン29日=共同】一度傷つくと再生しないとされていた脳の中枢神経が、
「bcl2」と呼ばれるがん遺伝子によって再生されることを、ノーベル医学生理学賞を受賞した利根川進マサチューセッツ工科大教授らの研究グループが動物実験で突き止めた。利根川教授は「この遺伝子を体内に注入する遺伝子治療などで、脳に障害がある新生児や脳卒中の後遺症、神経変性疾患などを治療できる道が開ける」と話している。30日付の英科学誌ネイチャーに発表された。
利根川教授によると、研究グループは受精後の日数が異なるマウスの胎児の網膜と脳の一部をそれぞれ取り出し、互いに接触させた状態で培養した。網膜と脳の神経細胞は通常はつながっているが実験では切断された。
受精後間もない胎児は網膜の神経細胞の軸索の部分が再生したが、受精後かなり日数
が経過し生まれる直前の胎児は再生せず、成長のある段階を境に再生しなくなることを確認した。再生しなくなる時期は、bcl2が作るたんぱく質の量が極端に減る時期とほぼ一致することを発見した。
一方、bcl2遺伝子が作るたんぱく質の量が成長しても減らないよう遺伝子操作し
たマウスで実験したところ、成長の過程に関係なく中枢神経の細胞は再生、この遺伝子が再生に関与していることが分かった、という。bcl2遺伝子は異常が起きるとある種のがんを起こすなど、細胞の増殖、分化に関係する幅広い働きをすることで最近注目されていた。
○利根川進・米マサチューセッツ工科大教授の話
脳の神経線維が損傷した場合、神経がまひするなどの現象が見られるが、元に戻す治療法はこれまでなかった。新たな治療法を開発するためには一度損傷するとなぜ再生しないかというなぞを分子レベルで解明する必要があり、私たちの研究が脳障害の治療法開発に向けた大きな一歩となることを期待したい。(共同)



岡山大で肺がん遺伝子治療始まる 増殖細胞に「自死」命令

発行年月日   1999年 3月 2日
媒体(紙誌)  東京読売新聞 夕刊
 国内初の肺がん遺伝子治療の臨床研究(治験)が二日朝から、岡山大医学部付属病院(岡山市)で始まった。抗がん剤、放射線療法などが効かず、手術でがんが切除できない関西の男性患者(57)に、がん抑制遺伝子「p53」を組み込んだ風邪ウイルスの溶液を患部に直接、注射した。国内の遺伝子治療は三例目で、がんでは東大医科学研究所付属病院の腎臓(じんぞう)治療に次いで二例目。
 患者は同日午前八時二十分ごろ、手術室に運ばれて全身麻酔を施された。同学部第一外科の医師らが患部の出血などを調べた後、同九時四十分ごろからp53を組み込み無害化した風邪ウイルスの一種アデノウイルスの溶液三ミリ・リットルを、気管支内視鏡を使って三か所に注射。治療は同十時半に終わり、患者は経過を診るため約二週間入院する。
 患者は昨年一月、気管支の分岐部に肺がんの扁平(へんぺい)上皮がんが見つかり治療したが、昨秋に再発。抗がん剤、放射線療法では治療効果がなく、肺気しゅを併発して手術もできなかったため、遺伝子治療を希望。先月一日から適応検査とインフォームドコンセントを受けていた。
 p53は増殖するがん細胞に「自死」を命令し、新しい血管の発生を抑えて栄養補給を断つ作用がある。免疫力を高める遺伝子を使った東大医科研とは違った方式。



遺伝子治療 申請ラッシュの陰で… 基盤作り停滞

発行年月日   1999年 2月 5日
媒体(紙誌)  東京読売新聞 朝刊
 わが国初の遺伝子治療は、1995年に北海道大学で重症の免疫不全症(ADA)の小児に試みられて成功したが、昨年秋、東大医科学研究所で二例目の遺伝子治療(腎臓(じんぞう)がん)が始まった。その後、主だった医療機関で審査機関に遺伝子治療の実施を求める申請が相次ぐ「申請ラッシュ」が起きている。しかし、治療効果に対する疑問点や、治療方法、遺伝子導入物質(ベクター)ともにほとんど米国の「模倣」というのが現状だ。日本の遺伝子治療の実情、可能性を探る。(科学部 本間雅江)
 〈見えぬ効果〉
 「今のところ、患者さんの状態は落ち着いています。安全性が確認できれば、この治療法のすそ野も広がる。がん治療の一つの選択肢として認められる大きなステップになるはず」
 東大医科学研究所で先月21日、腎がん患者(60)に4回目の細胞注射をした後、総括責任者の谷憲三朗助教授は、今後の遺伝子治療の見通しをそう語った。
 全国の大学や研究所で、遺伝子治療の臨床応用に向け準備が進んでいる。これまで国や大学などに申請された計画は計十三件。「先端医療」という名のバスに乗り遅れまいと、申請準備中の計画も数多い。
 こうした“申請ラッシュ”の背景に、従来の薬物治療や外科療法とは異なる、「遺伝子を操作する」という全く新しい治療法への期待感が挙げられる。
 しかし、米国に比べ五年以上遅れてきた「ブーム」に首をかしげる関係者は少なくない。申請中の計画のほとんどはすでに米国で行われた研究の二番せんじ。その米国でも「著しい効果があった」成功例は、重い免疫不全症の数例に過ぎない。「効果も調べるが、それが主な目的ではない」(谷助教授)の言葉通り、わが国の計画はいずれも「安全性試験」なのだ。
 海外では90年以降、3千人以上の患者に治療が試みられている。がんを対象にしたのが全体の7割。残りはエイズなど。だが、これだけの症例にもかかわらず、効果は一向に見えてこない。そのため、「毒にも薬にもならない」と悲観的な見方も出ている。
 これに対し、効果が見えそうな病気、とりわけ慢性疾患を対象にした新しい流れが浮上した。大阪大では昨年十二月、糖尿病の合併症である閉塞(へいそく)性動脈硬化症を対象とする遺伝子治療を国内で初めて学内審査委員会に申請した。この病気は血管が詰まり、悪化すれば下肢を切断しなければならないが、新たに血管を作る遺伝子を導入することで血流を確保しようという方法だ。米国では、十人中七人がこの方法で切断をまぬかれたとの報告もあるという。慈恵医大では、心筋梗塞(こうそく)の遺伝子治療計画の学内申請に向け準備中だ。
 〈借り物〉
 ◆米依存は変わらず
 その一方で、遺伝子治療の“隆盛”に見合うだけの基盤作りは遅々として進んでいない。
 治験のカギを握るベクターは米国から輸入した“借り物”、その安全性検査も欧米のベンチャー企業に依存、方法自体も米国の模倣。どれもこれも自前の技術を持たないためだが、今後予想される申請・承認の増加を考えると、「あまりにもお粗末な基盤」(浅野茂隆・東大医科学研究所付属病院長)なのだ。
 現行の承認手続きも厚生、文部両省の二重審査なので、臨床応用にこぎ着けるまで数年かかる。
 厚生省の遺伝子治療関連予算も、厚生科学研究費を各大学、研究者に個別補助。平成十年度は、15件約七億円の交付予定だが、全体的な体制を見通した予算は組まれていない。
 このようにぜい弱な研究基盤は、国内企業からも見放されている。日本たばこ産業(JT)は昨年末、米国のベンチャー企業をパートナーに選ぶ遺伝子治療の新技術開発計画を発表した。この治療法がものになるかどうかは未知数といえる。
 しかし、国が今後も各種の遺伝子治療を承認する方針なら、効率の良い予算配分と、ベクターの安全性検査機関の設置など「最低限の基盤整備」(浅野院長)は不可欠。基盤が整って初めて、日本の遺伝子治療は外国と同じ土俵に立つことができる。

 〈遺伝子治療〉
 生命の設計図である遺伝子(DNA)を薬のように体内に注入し、病気を治す手法。1990年に米国で初めて行われた。入れる遺伝子は、病原性をなくしたウイルス(ベクター=遺伝子導入物質)に組み込むため、運び役となるベクターの優劣が治療のカギとなる。成功率は、ベクターに遺伝子が組み込まれる率と、ベクターが体内の細胞に遺伝子を受け渡す率の二点に主に左右される。このため、世界中で優れたベクターの開発競争が行われている。

 《遺伝子治療計画の申請状況》
  (かっこ内は組み込む遺伝子)
 ■国の承認済み
・北大…ADA欠損症(ADA遺伝子)(成功して、男児は小学校に通学中)
・熊本大…エイズ(HIVの遺伝子の一部)(実施前に中止)
・東大医科学研究所…腎細胞がん(ヒト顆粒球マクロファージ刺激因子hGM―CSF)(実施中)
・岡山大…非小細胞肺がん(p53遺伝子)
 ■国で審査中
・千葉大…進行食道がん(p53遺伝子)
・がん研究会がん研究所…乳がん(ヒト多剤耐性遺伝子〈抗がん剤耐性〉MDR1)
・東大医科学研究所…肝がん(p53遺伝子)
 ■学内審査で承認、国に申請準備中
・千葉大…脳しゅよう(インターフェロン遺伝子)
・東京慈恵医大…肺がん(p53遺伝子)
 ■学内で審査中
・東北大加齢医学研究所…肺がん(p53遺伝子)
・大阪大…閉塞性動脈硬化(HGF遺伝子)
・岡山大…前立腺がん(チミジンキナーゼ遺伝子)
・神戸大…前立腺がん(hGM―CSF遺伝子)

 写真=腎臓がんの遺伝子治療の手術準備をするスタッフ
(昨年10月、東京・港区の東大医科学研究所付属病院で)



神戸大が前立腺がんの遺伝子治療を申請 米で開発の細胞利用 岡山大と別方式

発行年月日   1999年 2月 4日
媒体(紙誌)  大阪読売新聞 朝刊
 神戸大医学部泌尿器科(守殿貞夫教授)が、わが国で急増している前立腺(せん)がんを対象とした遺伝子治療を、昨年十二月十八日、同大の倫理委員会と病院長に申請していたことが、三日分かった。がんへの免疫力を高める遺伝子を組み込んだ細胞を利用する方法で、スピーディーに多くの患者を治療できる。同遺伝子ではすでに東京大がじん臓がんの治療を実施、細胞も米国の大学で臨床実績が積まれており、安全性が高いことから実施承認への問題点は少ないとみられる。前立腺がんの遺伝子治療の申請としては、別の方法を公表ずみの岡山大より早く全国で初めて。(3面に解説)
 同遺伝子は、免疫力を高める効果を持つ刺激因子の一種「GM―CSF物質」を合成するもので、東大医科学研究所がじん臓がん患者に、この遺伝子を組み込んだがん細胞を注射し、効果を上げている。患者本人から細胞を採取、遺伝子を組み込んで培養する“オーダーメード方式”だ。
 これに対し、神戸大の計画では日本たばこ産業も出資する米国企業が開発した細胞を利用。“既製品方式”のため、培養に時間がかからず、迅速に多数の患者への治療が可能となる。
 同遺伝子を組み込んだがん細胞を、腕と太ももの計四か所に皮下注射するだけで、患者への負担も軽いとされる。当面の対象は、患部摘出手術後、再発の可能性があり、骨に転移していない患者に限る。
 “既製品”細胞を使った治療は、米国ジョンズ・ホプキンス大で約二十例行われている。がんの進行を抑える上、目立った副作用もないと報告されている。
 岡山大も一月二十八日、抗ウイルス薬の活性化を促す遺伝子をウイルスに組み込み、患者のがん細胞に直接注射する遺伝子治療を同大病院に申請していた。



前立腺がんの遺伝子治療 岡山大で初の申請へ

発行年月日   1999年 1月21日
媒体(紙誌)  東京読売新聞 夕刊
 岡山大医学部泌尿器科(公文裕巳教授)が、高齢の男性に多い前立腺(せん)がんに対する遺伝子治療の実施を、今月28日にも同学部付属病院に申請することが、21日わかった。国内では前立腺がんの遺伝子治療の申請は初めて。同病院の遺伝子治療臨床研究審査委員会が審査、文部、厚生両省の承認を経て実施される。
 前立腺がんによる男性の患者死者数は、日本でも急増しており、新たな治療法として注目される。
 計画によると、抗ウイルス薬を活性化するチミジン・キナーゼ(リン酸化酵素)を作る遺伝子を組み込んだ無害化されたアデノウイルス(風邪ウイルスの一種)を患者のがん細胞に注入し、さらに抗ウイルス薬ガンシクロビルを注射する。活性化された同薬が、がん細胞のDNA(デオキシリボ核酸)合成を妨げ、死滅させる。
 前立腺は、膀胱(ぼうこう)の真下にある分泌腺で、がん細胞増殖には男性ホルモンが関与。男性ホルモンの分泌を抑える薬の投与などのホルモン療法が行われるが、5年以内に60―40%が再発する。今回は、ホルモン療法が効かず、がんが転移していない患者を対象とするという。



大阪大グループが動脈硬化に遺伝子治療 倫理委に申請 血管新生、足の切断避け

発行年月日   1998年12月15日
媒体(紙誌)  大阪読売新聞 朝刊
 ◆99年末にも実施
 大阪大加齢医学講座の荻原俊男教授らの研究グループは十四日、糖尿病が主な原因で血管が詰まり、ひどい場合は足を切断しなければならない病気、閉そく性動脈硬化症に対する遺伝子治療を学内の医学倫理委員会に申請した。新しい血管を作らせる物質の遺伝子を足の筋肉に注射し、血流を良くする治療法で、米国では数年前から実施され、劇的な効果を上げている。倫理委承認後、国にも申請する予定で、実施されれば国内初。同グループでは早ければ来年末ごろにも行いたいとしている。
 閉そく性動脈硬化症は症状の重い場合は足に潰瘍(かいよう)ができて壊死(えし)し、国内でも年間約二百人が足を切断しているというが、現状では有効な治療法がない。
 同グループの申請した方法は、血管形成を促す作用の強い生理活性物質、肝細胞増殖因子(HGF)の遺伝子を、ウイルスから取り出した「プラスミド」と呼ばれる自己複製能力のある特殊な環状DNA(デオキシリボ核酸)に組み込み、患部周辺の筋肉数か所に注射する。そうすると細胞内でHGFが働き、詰まった血管の周りに新たな血管が形成される。
 この治療法は米タフツ大のJ・イズナー教授が確立。現在までに血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の遺伝子を約百人に導入し、約三分の一が完治したという。HGFは中村敏一・阪大教授(腫瘍(しゅよう)生化学)が発見し、VEGFよりも血管新生効果が二倍ほど高いことが実験で確認されたため、同グループではHGFを用いることにした。イズナー教授も共同研究者として申請者に名を連ね、プラスミドの精製などを担当する。
 対象者は血管に風船を入れて広げる療法や、別の血管をつなぐバイパス手術のできない症例で、安静時にも痛みのある四十歳以上の患者。一か月おきに二度注射して効果を確認する。
 体内の血行を促進する可能性があるので、患者ががんや糖尿病性網膜症を併発している場合、副作用として症状を悪化させる恐れもあるが、同グループでは「患部に直接注射するため、ほかの部位に影響はなく、HGFの全身の血中レベルはほとんど上がらない。タフツ大の症例でも副作用は出ていない」と話している。
 しかし危険性を完全に否定できないため、学外の識者による評価委員会を作って症例ごとに事前に検討してもらう。

図=閉そく性動脈硬化症の遺伝子治療



東北大学も肺がん遺伝子治療申請

発行年月日   1998年11月11日
媒体(紙誌)  東京読売新聞 朝刊
 東北大加齢医学研究所の貫和敏博教授(呼吸器内科学)のグループはきょう十一日、同研究所付属病院に設置される「遺伝子治療臨床研究審査委員会」に、肺がんを対象とした遺伝子治療の実施を申請する。審査委は厚生省の遺伝子治療ガイドラインに照らして検討を進め、承認後は引き続き厚生、文部両省の審査に移行、両省での承認後、治療を開始する。
 治療は、がん細胞の増殖を抑える「p53」と呼ばれるがん抑制遺伝子を、遺伝子の運び役(ベクター)である無毒化したアデノウイルスに組み込み、内視鏡を使って患部に注入する。この方法は米国で三年前に開発され、すでに世界中で約五十例が実施されている。
 対象となるのは、肺がんの八割以上を占める「非小細胞肺がん」にかかり、抗がん剤、放射線治療の有効性が認められない患者ら。
 肺がんの遺伝子治療は、国内では岡山大が来年早々に治療の実施を予定しているほか、東京慈恵医科大も七月から学内審査に入っている。



がん遺伝子治療始まる 日本初、60歳男性患者/東大医科研

発行年月日   1998年10月 5日
媒体(紙誌)  東京読売新聞 夕刊
 がん細胞に免疫力を高める働きをする遺伝子を導入して進行がんを治す、わが国初のがんの遺伝子治療が五日午前九時十五分から、東京・白金台の東大医科学研究所(医科研)付属病院(浅野茂隆院長)で、医科研と筑波大の合同チームの手で始まった。治療の対象患者は、筑波大泌尿器科で、肺に転移した進行性の腎(じん)細胞がんと診断された60歳の男性。国内での遺伝子治療は、三年前に北海道大で重症の免疫不全症(ADA)の男児に行われたのに続き二例目。
 遺伝子を組み込むのに必要ながん細胞を採取するため、がん病巣のある右側の腎臓を摘出する手術が行われ、午後零時四十五分終了した。さらに、取り出した腎細胞がんの培養を開始した。約一週間後に、がん細胞攻撃にかかわるhGM―CSF遺伝子を組み込む予定。約四週間後には、組み込んだがん細胞の安全性を確かめるため米国の企業に送り、実際に患者の体内に注射するのは約二か月後になる。二週間おきに計六回注射した後も、数年間がん縮小効果を調べる。
 患者は痛みや出血などの症状を訴え、筑波大で先月、腎細胞がんとの診断を受けた。ほかに有効な治療法がなく、治療に同意した。
 医科研では今後、今回の治療で副作用などの安全性を確かめたうえで、四人の患者に実施する予定。
     ◇
 欧米に遅れること四年。ようやく国内でも遺伝子治療が始まったが、治療の中核をなすベクターと治療方法ともに米国で生まれ、患者に注射する細胞の安全性確認も米国で行われる。自国でベクターを作ったり、安全性を確認したりする施設がないためだ。三年前に北大で国内初の遺伝子治療が行われた時にも、“輸入”に頼るわが国の研究体制が問われたが、状況は今もほとんど変わっていない。
 「他国の追随」ではなく、独自の遺伝子治療に向けた体制作りを急ぐ必要がある。(科学部 本間雅江)
 〈hGM―CSF〉(ヒト顆粒=かりゅう=球マクロファージコロニー刺激因子)白血球を構成する顆粒球やマクロファージを増加させることで、異物を攻撃する機能を増強させる因子。がん細胞と正常細胞を区別し、がん細胞を攻撃しやすくさせる働きもある。

 図=東大医科研の腎がん遺伝子治療の仕組み



脳腫瘍の遺伝子治療 名古屋大学が国内で初めて承認

発行年月日   1997年10月15日
媒体(紙誌)  東京読売新聞 朝刊
 名古屋大医学部の遺伝子治療臨床研究審査委員会(委員長=吉田松年・がん細胞研究部門教授)は十四日、脳神経外科(吉田純教授)から申請が出ていた脳腫瘍(しゅよう)(悪性グリオーマ)に対する遺伝子治療計画に対し、「対象疾患は難治性で従来の外科治療、化学療法、放射線療法などでは延命が困難」として、国内で初めて承認した。
 この治療は、極微小のカプセル(リポソーム)にがん治療薬であるインターフェロンの遺伝子を入れ、脳腫瘍に直接投与してインターフェロンを作り出させることで腫瘍をたたくもの。
 実際に治療を行うには国の承認が必要で、年内に書類を提出する。
 国内では、北海道大学による免疫不全症(ADA欠損症)への遺伝子治療が行われている。




遺伝子治療を了承−−肺がんで初、岡山大が来月実施

発行年月日   1999年 2月25日
媒体(紙誌)  毎日新聞 朝刊
 岡山大医学部付属病院(岡山市)の遺伝子治療臨床研究審査委員会は24日、同病院が実施する肺がん遺伝子治療の臨床試験について、関西在住の男性患者(57)を1人目の対象者として了承した。来月2日、男性の肺のがん病巣に、がん細胞を自滅させる働きを持つ遺伝子を直接注入する治療を始める。1カ月に1度の投与を繰り返し、半年間をめどに効果の有無や副作用がないかなど安全性を確認する。遺伝子治療は国内3例目、肺がんでは初めて。
 かぜウイルスの一種、アデノウイルスを無害化したベクター(遺伝子の運び役)に、がん細胞の増殖を防ぎ、自滅を促す作用を持つp53遺伝子を組み込んで、患者のがん病巣のある気管支に気管支鏡を使って投与。患者は検査でp53遺伝子異常が確認されており、投与されたp53遺伝子の働きでがん細胞の自滅を誘う。治療は同学部第1外科(田中紀章教授)が実施する。



末期の腎がん患者の遺伝子治療 予定を終了、安全性を確認−東京大学医科学研−

発行年月日   1999年 2月19日
媒体(紙誌)  毎日新聞 朝刊
 末期の腎(じん)がんの男性患者(60)に対する遺伝子治療臨床研究を進めている東大医科学研究所付属病院のグループは18日、免疫反応を高める遺伝子を導入したがん細胞の6回目の注射を実施した。当初予定された計画はこれで終了し、短期的な安全性が確認された。細胞は8回分残っており、3月の臨床検討会で注射を継続するかどうか決める。
 医科研のチームは患者のがんになった腎臓を昨年10月に摘出、がん細胞に顆粒(かりゅう)球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM―CSF)の遺伝子を導入し、昨年12月から2週間に1回の割合で患者に注射してきた。
 総括責任者である谷憲三朗助教授によると、患者の状態は安定しており、アレルギー反応など短期的な副作用はみられない。5回目の注射の直前に患者のがん細胞を皮内注射したところ、がんを攻撃する患者の免疫力が局所的に高まっている可能性が示された。肺の転移病巣は縮小していないが、腫瘍(しゅよう)増殖のスピードが遅くなっているという。
 医科研チームは2週間後に再び皮内反応を調べ、治療継続の意味があるかどうかを検討する。この臨床研究は安全性の確認が主目的で、有効性については今後検討していくという。【青野由利】



[サイエンスミニ]非小細胞肺がん

発行年月日   1999年 1月26日
媒体(紙誌)  毎日新聞 朝刊
 肺がんには小細胞、へん平上皮、腺(せん)、大細胞の四つのタイプがあるが、小細胞がん以外の三つは抗がん剤が効きにくく、まとめて非小細胞肺がんと呼ばれる。肺がんの8割を占め、症状が出始めた時点で3分の2は手術ができない。そこで新たな治療法として、東京慈恵医大付属病院などが肺がんの遺伝子治療を計画している。非小細胞肺がんのうち半分は、p53というがん抑制遺伝子の異常で発症するからだ。
 正常なp53遺伝子は、無制限な増殖を繰り返すようになったがん細胞に対し自殺する指令を出す。しかし、p53に異常が起きると、細胞の自殺を命じることができなくなり、がん細胞の増殖する力が強くなってしまう。
 遺伝子治療は、遺伝子の運び屋のウイルスに正常なp53遺伝子を乗せて肺がん細胞に送り込む。うまく入ると、p53遺伝子はがん細胞の増殖を抑える。肺がんの遺伝子治療は、米国では7割の患者で有効だったが、効果の確認には、まだ時間がかかりそうだ。(ぶ)



肺がん遺伝子治療を承認−−東京慈恵医大付属病院の遺伝子治療審査委員会

発行年月日   1999年 1月21日
媒体(紙誌)  毎日新聞 朝刊
 東京慈恵医大付属病院の遺伝子治療審査委員会(委員長、田嶼尚子・第3内科教授)は20日、同大DNA医学研究所の衛藤義勝教授らから申請されていた肺がんに対する遺伝子治療の臨床研究を承認した。この遺伝子治療は、がんを抑制する「p53」という遺伝子を組み込んだウイルスを肺がん患者に注射し、がんを抑制する。同大は2月にも厚生省と文部省の遺伝子治療の審査機関に実施を申請する。【吉川学】



がん抑制遺伝子、3種類目を発見−−東京医科歯科大などが共同研究、治療にも期待

発行年月日   1998年 6月30日
媒体(紙誌)  毎日新聞 朝刊
 がん抑制遺伝子「p53」の仲間の遺伝子が東京医科歯科大の井川洋二教授、東北大加齢医学研究所の長田元伸研究員らの共同研究によって発見され、1日発売の英科学誌「ネイチャー・メディスン」7月号に掲載される。がん抑制遺伝子の発見は3種類目で、遺伝子治療に結び付く可能性があると期待されている。
 がん抑制遺伝子はがん細胞の増殖を抑える遺伝子で、これまでにp53、p73の2種類が見つかっている。がんの中には、p53の変異が見られないものがあり、p73は神経系でしか見つかっていない。このため、世界の研究者が別のがん抑制遺伝子を探していた。
 井川さんらはいろいろな動物が共通して持っているたんぱく質のアミノ酸配列の領域から、遺伝子の本体であるDNAを取り出し、p53に似た遺伝子を探した。機能や構造の似た遺伝子が見つかり、たんぱく質の分子量からp51と名付けた。p51は骨格筋や心筋などの筋組織、前立腺(せん)や乳腺などで見つかっている。「3種類の遺伝子がどう関係し合っているのか、明らかにしたい」と井川さんは話している。【松村由利子】



世界初、食道がん遺伝子治療 千葉大学が学内承認 来月にも国に申請

発行年月日   1998年 5月27日
媒体(紙誌)  毎日新聞 大阪朝刊
 千葉大医学部付属病院の遺伝子治療臨床研究審査委員会は26日、同大病院が計画している進行性食道がんの遺伝子治療を承認した。来月にも厚生省と文部省の審査機関に申請する。施設内の審査機関が承認した、がんの遺伝子治療は岡山大、東大医科学研究所に次いで3件目。食道がんの遺伝子治療としては世界で初のケースとなる。
 計画によると、がん細胞で異常を起こしているがん抑制遺伝子p53の正常型を、アデノウイルスを改変したベクター(遺伝子の運び屋)を使って直接患部に送り込む。うまくいけば、がんの増殖が抑えられるという。
 対象とするのは、ほかに治療法のない進行性食道がんの患者で、最大39人に実施する。アデノウイルス・ベクターは米国の企業から輸入し、最終的な安全性チェックも米国で行う。
 p53を使った遺伝子治療は、すでに米国で肺がんなどに対する臨床試験が実施されているが、有効性は未知数だ。




乳がんの遺伝子治療研究 癌研究会、国に申請へ

発行年月日   1998年 3月26日
媒体(紙誌)  毎日新聞 大阪朝刊
 財団法人癌研究会(東京都豊島区)は25日、同研究会付属病院のチームが計画する乳がんの遺伝子治療臨床研究を施設内の審査委員会が承認したと発表した。複数の抗がん剤に抵抗性を示す多剤耐性の遺伝子を血液細胞に組み込み、抗がん剤の副作用を軽減する狙いで、近く国に申請する。がんの遺伝子治療は岡山大と東大医科学研究所がそれぞれ申請しており、癌研が申請すると3件目になる。
 癌研の計画では、再発患者に抗がん剤を大量投与する前に血液細胞の元になる造血幹細胞を採取し、遺伝子の運び屋であるレトロウイルス・ベクターを使って多剤耐性遺伝子「MDR1」を送り込む。【青野由利】



国産ベクターで遺伝子治療−−悪性脳腫瘍、名古屋大学医学部が実施へ

発行年月日   1997年10月15日
媒体(紙誌)  毎日新聞 朝刊
 名古屋大学医学部(名古屋市昭和区)の遺伝子治療臨床研究審査委員会は14日、同大脳神経外科(吉田純教授)が申請していた悪性脳腫瘍(しゅよう)に対する遺伝子治療の臨床応用を承認した。外国から輸入したウイルスをベクター(遺伝子の運び屋)に用いる治療は国内の他大学でも承認されているが、独自に開発した国産のベクターによる治療が承認されたのは初めてで、名大は文部、厚生両省にこの治療の許可を申請、審査を経たうえで治療に乗り出す。
 この治療法は、リポソームという脂質人工膜でできた微小な袋をベクターとして使うのが特徴。抗がん作用のあるインターフェロンをつくる遺伝子をリポソームに入れて、患部に注入する。この遺伝子が、がん細胞内でインターフェロンを次々に生産し、がん細胞を殺す仕組み。マウスを使った実験では効果を上げているという。
 がん細胞以外の正常な細胞には影響せず、ベクターにウイルスを用いる従来の治療に比べ、より安全性が高いという。国内では北海道大などで外国の手法を取り入れた遺伝子治療が既に承認されているが、独自に開発した国産ベクターを使った名大の治療法は、国の審査段階でどのような結論が出されるのか注目を集めそうだ。【長沢英次】
 ◇名大遺伝子治療臨床研究審査委員会の吉田松年委員長(医学部教授)の話
 ウイルスでなく、リポソームを用いた治療は日本では例がない。実際の治療がいつごろから始まるかは何とも言えないが、成果を見守りたい。



[ニュースの読み方]北大の遺伝子治療 効果持続が今後の焦点

発行年月日   1997年 8月22日
媒体(紙誌)  毎日新聞 朝刊
 北海道大学医学部付属病院の日本初の遺伝子治療が一定の効果を上げ、無事終了した。治療を受けた重度の免疫不全症・ADA欠損症の6歳男児はもちろん、日本の医学界にとっても朗報で、今後は治療効果の持続が焦点となる。倫理面や安全性、有効性が問われる遺伝子治療は、北大では大きなトラブルこそなかったが、後続のエイズやがんの治療では楽観できない。21世紀の「夢の治療」は、期待とともにクリアすべきハードルも多い。
 北大の遺伝子治療は米国と共同で1995年8月にスタートした。ADA欠損症とは、遺伝子の故障でADAという酵素を作れず、免疫不全となるまれな病気。北大は男児から採血し、試験管内でリンパ球細胞を取り出した後、ベクター(遺伝子の運び屋)を用いて正常なヒトのADA遺伝子を組み込み、点滴で男児に戻す治療を、今春まで11回行い、免疫力を高めた。終了は今月4日、学内の審査委員会で正式に決まった。
 かぜをひいても危険だとして、外出が制限されていた男児は今春、小学校に入学。夏休みのキャンプでまっ黒に日焼けしたという。男児の母は「人込みなど気にしないで出かけられるようになった」と喜ぶ。
 しかし、残念ながら治療効果は「有限」だ。正常な遺伝子を組み込んだリンパ球細胞には寿命があり、いずれ体内で減っていく。北大の崎山幸雄助教授は、男児について「
何年か先に効果は落ちる。ひょっとしたら半年後に治療を再開しなくてはいけない可能性もゼロではない」という。母は「心配なのは、いつまで良い状態なのかだれも分からないこと。医学の進歩に期待している」と漏らす。
 北大が先例とした米国立衛生研究所の女児のケースは、92年に治療を終え、5年経過した現在も効果は持続しているという。
 ADA欠損症は遺伝子治療の有効性を実証するモデルとされ、欧米で10例が試みられたが、著しい効果を上げたのは、北大が米国に次ぎ2例目に過ぎない。
 米国も北大も次のステップとして、造血幹細胞に遺伝子を組み込む研究を進めている。造血幹細胞に遺伝子が入れば、細胞分裂で正常な細胞が体内で増えるため根治療法となるが、実用化のめどは立っていない。
 ADA欠損症のほか、がんやエイズに期待がもたれる遺伝子治療は欧米で1000人以上が治療を受けたが、効果を確認できたのは、ごく一部に過ぎない。このため米国では遺伝子治療の有効性を冷静に評価する段階に来ているという。
 欧米の先端医療に詳しい自治医大学長の高久史麿氏(厚生科学審議会先端医療技術評価部会長)は「遺伝子治療は先天性疾患より患者の多いがんやエイズに向かわざるをえない。目ざましい成果は出ていないが、ほかにうまい方法がなく、基礎と臨床の研究が今後も必要だ」と話す。
 国内では北大に続き、熊本大がエイズ、東大医科学研究所がじん臓がん、岡山大が肺
がんの遺伝子治療の計画を厚生省に申請。このうち、熊本大は今年5月に承認を受けたが、6月末に米国製のベクターの安全性に疑問がもたれ、治療は延期のままだ。
 (北海道報道部・川口雅浩)
■写真説明 遺伝子治療の終了を発表する北大医師団(8月4日)



抗がん剤の副作用抑制、国産ベクターを開発−−札幌医大、米で臨床研究へ

発行年月日   1997年 6月 5日
媒体(紙誌)  毎日新聞 朝刊
 がん治療で広く使われている抗がん剤「アルキル化剤」の副作用を抑える遺伝子治療のベクター(遺伝子の運び屋)を札幌医大が開発、米国インディアナ大が臨床研究に用いることが4日明らかになった。実際の患者に投与する臨床研究に日本製のベクターが用いられるのは国内外を通じて初めて。ベクターの開発は米国が先進国で、日本オリジナルの新技術の有効性が米国で確認されれば、がん患者はもちろん、日本の医学界にとっても朗報となる。
 ベクターを開発したのは札幌医大第4内科の新津洋司郎教授らの研究グループで、今回のベクターは、北大がADA欠損症の遺伝子治療で使用したベクターと同じく、レトロウイルスを無毒化したもの。
 アルキル化剤は、副作用が強く血液を造り出す骨髄に悪影響を与え、白血球が減少し感染症にかかりやすいなどの副作用がある。同グループでは、動物実験で血液の中から造血幹細胞を取り出し、ベクターを使って、抗がん剤に抵抗力のある耐性遺伝子を造血幹細胞内に組み込み、体内へ戻すことで副作用を半減させることに成功した。患者の負担が軽くなるため、従来よりも多くの抗がん剤の使用が可能になるという。
 新津教授は試験管内と動物実験でこのベクターの有効性を確認し、昨年12月、米国の血液学会で発表。インディアナ大のデビッド・ウィリアムズ教授が新津教授にベクターの使用を申し入れ、共同研究が行われることになった。
 ◇ベクター
 レトロウイルスなどを無毒化して用い、正常な遺伝子を乗せて目的の細胞まで運び、遺伝子を組み込む役目を担う。遺伝子治療のカギを握る。


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